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美味しさの最大公約数─いま、僕が注目している「外食」は

最近、吉野家が「初の麺商品」と銘打った「牛玉スタミナまぜそば」をメニューに加えたと聞き、食べに行ってみました。


正直、吉野家らしく“牛肉の可能性をもっと活かしたまぜそば”だったら、もっとワクワクしたかもしれない……とも感じましたが、牛丼チェーンが麺商品を一気に全店導入するという「決断」と「実行力」は正直、すごい。


発売から2週間で100万食を突破したというリリースも出ていて、どれだけの数値目標を置いていたのかはわかりませんが、一定のインパクトがあったことは確か。全国チェーンとして“やりきる”姿勢には、僕は素直にリスペクトを感じました。


牛丼という主力メニューをどう活かし、全く異なるジャンルにどう橋渡ししていくか──その挑戦には、大規模チェーンでなくても参考になるヒントが詰まっていると感じます。


そして最近は、こういった“チェーン店の商品づくり、店づくり”こそ、ラーメン業界にとってのヒントの宝庫なのでは? そんなふうに思うようになってきました。


美味しさの最大公約数を探すと、顧客も見える


ラーメン屋を長く続けていると、すごく近視眼的というか、狭い見方でラーメン屋を捉えてくるようになってきちゃう傾向もあるように思います。これは自分自身の捉え方でも、そうでした。例えば、TRYラーメン大賞やラーメンWalkerの上位店。「今、何が話題か?」「どんな素材を使っているのか?」「どうやって話題を作っているのか?」そんな風に、いわゆる業界の潮流やトレンド、先端の取り組みを学ぶ、という思考が強くなってしまうんです。


それらがもちろん、重要なのは言うまでもありません。でも、僕自身がラーメン店を6000軒以上食べ歩いてきた今、ふと考えるようになったんです。レビューサイト、グルメ本、SNS──ラーメン評論家やフリーク、いわゆる“ラヲタ”と呼ばれる方々が高く評価している店が、本当に“多くの人が求めている味”なのか?


「絶対的においしいラーメン」として評価されていても、それが一般の人にとっての“おいしさ”や、“また行きたい”と思える味なの? と。そこで、最近は、もっと幅広い視点でラーメン業界を捉えたいと思うようになりました。


そうして見えてきたのが、“美味しさの最大公約数”を捉えている店やチェーンの存在感です。


たとえば、一風堂、一蘭、丸源ラーメン、魁力屋、ずんどう屋、神座、来来亭──グルメランキングやラーメンアワードに必ずしも登場するわけではないけれど、確実にお客様に支持されて、店舗を着実に増やしているブランドたちです。


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その“美味しさ”は誰に向けられたもの?


これらのチェーンは、「美味しさの最大公約数」を的確に捉えていると、僕は感じています。その“最大公約数”の先にいるのは、当然ながらラーメンフリークやラヲタではなく、マス層──つまり「ファミリー」なんです。


一風堂や一蘭をはじめとする各チェーンは、“多くの人が求める味”や“家族で行きやすい空間”を徹底的に追求していると思います。これは、僕自身が今、地方に拠点を構えていて、都心型のラーメン食べ歩きから少し距離を置いていることも影響しているかもしれません。


もちろん、フリークであっても、ファミリーであっても、どちらも大切なお客様に変わりはありません。ただ、数の面で見れば、圧倒的にファミリー層が多い。「どれだけ多くのお客様に“おいしい!”と笑顔で言ってもらえるか」──そう考えると、そう考えたとき、ファミリーにフォーカスするというのは、今の時代の選択肢のひとつになると思っています。


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それが顕著に現れるのが、「餃子、唐揚げ、チャーハン」といったサイドメニューの存在です。


これらは、専門店でラーメンに向き合うフリークから見れば、“不要なメニュー”に思われるかもしれません。でも、ファミリーや仕事帰りのお父さんにとっては、とても大切な選択肢なんです。


夕方4時、5時──唐揚げをつまみに軽く飲むお父さんがいて、子どもたちは唐揚げや餃子でしっかり満足する。丸源ラーメンなんて、ソフトクリームまであります。家族で楽しめる食事体験が、最初から設計されているんです。


もちろん、ラーメンを主軸に置いて伸びているチェーンもあります。山岡家などはその典型です。でも今、支持されているのは、“家族でゆったり、楽しく食べられる”という食事スタイルなんじゃないか──そう感じています。


ラーメンは……最後に食べてもいいし、食べなくてもいい。それくらいの立ち位置で、“満足”を前提にした食体験の中に組み込まれている。そう考えると、これからのラーメン店づくりにおけるヒントが、ぐっと広がってくる気がしています。


職人である前に、経営者として立っているか


最近、飲食業界、特にラーメン業界では閉店する店が本当に増えたと感じます。SNSで話題になっても、数年もたずに消える店もある。そういう現場を見て思うのは、「職人としてラーメンを提供していれば続く」という感覚は、もう厳しいのではないか、ということです。


ラーメン屋をやっていると、「美味しいと思うものを出したい」という想いが強まるあまり、評論家やアワード、フリークの評価を意識しがちです。結果として、原価をかけて製法にもこだわり、時間も労力もかけて仕上げるようになっていく。しかし、実際、今は材料費も人件費も高騰しています。それに比例して値上げをバンバンできるかといえば、そんな店ばかりではないでしょう。そういったジレンマが、多くの店を苦しめている一因になっていると思います。


つまり、職人としてのこだわりと、経営者としての判断は、ときに相反する。職人として味を極めたい。でも、その味を継続的に提供するには、経営を成立させなければならないんです。


選択肢はいろいろあるでしょう。プロ経営者と組んで、職人としての仕事に集中するというスタイルもあるし、激戦区から少し離れて、地方でマイペースに店を営むというスモールビジネスも選べる時代です。自分の生き方に合った選択をすることが大事なんだと思います。

その中で、経営と職人、どちらか一方に偏るのではなく、両方の視点で飲食店を動かしている店主もいますね。たとえば、『中華蕎麦 とみ田』の富田くん。職人として一杯のラーメンにこだわり抜きながら、大手コンビニや外食チェーンと組んでの商品開発や、製麺所を構えた展開など、経営的にも大きな視野で動いている姿勢は、「すごい!」と正直に思いますね。


ラーメンを超えて。僕がいま注目している“外食”の構造


最近で言うと、すかいらーくホールディングスのグループインから伸びている『資さんうどん』が気になりますね。うどんだけじゃなくて丼ものも充実していて、おでんやカレーもある。メニューが多彩なんだけど、ちゃんと“資さんらしさ”が芯にあって、「なんでこんなに上手くまとまってるんだろう?」って考えさせられます。


同じように、カツカレー専門店『いっぺこっぺ』。あの分厚いカツを、なんであの価格で出せるんだろう? と、つい原価やオペレーションのことを考えてしまいます。


最近は、そういうふうに「セットメニューってどう設計されてる?」「お得感や満足感ってなんだろう?」という視点で飲食を見ることが多くなってきました。


政治でも「増税か減税か」みたいな話が出ていて、生活の不安定さや物価の上昇が続いています。財布の紐が締まっている今、「たくさん食べられて満足できる」ということに、世の中のニーズは確実にシフトしていると感じます。


その視点で見たら、ラーメン界では「ちゃん系ラーメン」や家系、ラーメン二郎が根強いのも、すごく納得できる。チャーシューが山盛りで、ライスが無料で、青かっぱもどっさり乗せられたりする。そういう“わかりやすい満足”に、今の空気がフィットしているんだと思います。


もちろん、ラーメンランキング上位の店や、SNSで話題の新店をウォッチしていくことも大切です。業界の先端を知り、最新の素材や技術について知見を深めていくことも欠かせません。


でも、それ“だけ”では、経営は回らない。お客様にラーメンを届け続けること、店を持続させることはできないでしょう。


だから僕は、「なんでこのメニューなんだろう?」「なぜこの方向性で勝負しているんだろう?」と、飲食店の設計や経営判断の背景にある“戦略の意図”を知りたくなるんです。

ラーメンを入り口に、他の外食からも経営のヒントをもらい、自分の視点を広げていくこと──それが今の自分にとって、いちばん大切にしている姿勢かもしれません。


ラーメン店『ソラノイロ』創業者

飲食店コンサルタント 宮崎千尋

 
 
 

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