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デジタル化が飲食店を弱くする?銀座本店で感じた違和感

2025年10月、そらのいろ銀座本店の移転オープンにあたって、本格的に「QRコード注文」を導入しました。お客さまがスマホで読み取り、オーダーし、会計もセルフで完結するスタイルです。


正直に言えば、店側にとってのメリットは大きい。オーダーの取り違いは減るし、人手も抑えられる。キャッシュレス決済とも相性がいい。いまの飲食業界の流れを考えれば、自然な選択だったと思います。


ただ、実際に運用してみると、ひとつ大きな違和感を覚えました。便利になったはずなのに、店全体を俯瞰すると、どこか噛み合っていない感覚を覚える瞬間があったんです。


便利さが、接客を止めてしまうとき


少し前に、ある店に行ったときのことです。その店でも、注文はQRコードを読み込むスタイルでした。


入店時に「当店は90分制です」と説明され、「あとのご注文はQRでどうぞ」と案内される。それ以降、店員さんとの会話はほぼありませんでした。


初めて入る店なのに……

今日は何がおすすめなのか。

今日の肉はどれが一番いいのか。

この店らしい一皿は何なのか。


そういった情報が、まったくありません。もちろん、メニューを見れば「おすすめ」というアイコンはあります。でも、「今日はレバーがいいですよ」「ハラミ、絶対食べたほうがいいです」そんな一言があるだけで、お客さまの注文は大きく変わるはずなんです。


食事の途中で空いた皿を下げに来ることも最低限で、ドリンクを勧める声かけもほとんどない。つまり、QRによって、店員さんは“説明する役割”を求められなくなる構造になっている。その結果、スタッフの「もっと売ろう」「もっと楽しんでもらおう」という意識が介在しにくい空間になっているように感じました。


便利だけれど、僕たちは“そういう空気の店”を作りたいのだろうか。銀座本店でQRコード注文を運用しつつ、そう自問するようになりました。


飲食店は、何を売る場所なのか


もちろん、QRオーダーやセルフレジが悪いと言いたいわけではありません。QRでピッピッと注文して、ロボットが運んできて、会計もセルフで終わる。ファミリーレストランやチェーン店のように、それが最適解になるお店もあります。ここで注目したいのは「デジタル化の是か非か」ではありません。僕が気になっているのは、「全部そっちに振り切ってしまうこと」なんです。


元気な声、活気のある空気。

ランチに一杯の丼を平らげて、「午後も頑張ろう」と思える場。

ディナーに満足感のある一杯で一日を締めくくれる場所。


僕は、ラーメン屋とは「腹を満たす場所」であると同時に、気持ちを前向きにする場所でもあると思っています。


だからこそ、紙のメニューにも良さがある。人が説明することにも意味がある。どちらかを切り捨てる必要はないはずです。


そこで、僕がいま考えているのは「併用」という考え方です。QRでも注文できる。でも、人に直接頼んでもいい。「いつでも呼んでくださいね」というスタンスでいる。ドリンク追加だけならQR。おすすめを聞きたいならスタッフ。お客さんが選べる状態が、いちばん自然だと思うんです。


飲食店は、効率を売る場所ではなく、人との関係性を含めて体験を売る商売です。デジタルに仕事を頼るのではなく、デジタルを使って、人が本来やるべき仕事に集中していく。その前提に立ったとき、飲食店のDXは、「どこまでをデジタルに任せ、どこを人が担うのか」という、いわば設計の問題になるのだと思います。


ソラノイロは、効率化の先にある「人の価値」を大切にしていきたい。


その前提に立ち、デジタルとの距離感や活用の仕方を、これからも考え続けていきます。



ラーメン店『ソラノイロ』創業者

飲食店コンサルタント 宮崎千尋

 
 
 

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