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出店ラッシュの代償──撤退と損切りという学び

更新日:7月22日

1号店、2号店と形にし、2015年には東京駅の東京ラーメンストリートに『ソラノイロNIPPON』(現そらのいろNIPPON』を出店。「ソラノイロ」というブランドが少しずつ広がり始めていた頃。次に行こう、もっと大きくしよう。そんな勢いが、自分の中に確かにありました。


2016年、京橋エドグランに『ソラノイロトンコツ&キノコ』。2017年には、名古屋駅・ミッドランドスクエアに『ソラノイロNAGOYA』。さらに、浅草橋に『ソラノイロFactory&Labo』をオープン。


気がつけば、ソラノイログループは6店舗体制に突入していました。


でも今振り返ると、あの頃の自分は“成長”という言葉の先を、しっかり見ていなかった気もします。膨らんだ投資、張り詰めた経営体制──この出店ラッシュが、自分の経営にどれだけの負荷をかけていたのか。それに気づくのは、もう少し先のことでした。


京橋・名古屋・浅草橋──3店舗の新たなプレゼンテーション


『ソラノイロNIPPON』については、またあらためて語りますが、現在なくなっている3店舗にも、それぞれに面白いチャレンジがありました。


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京橋店ではスパイス×豚骨に挑戦
京橋店ではスパイス×豚骨に挑戦

京橋店は、西葛西の『スパイス・ラー麺 卍力』にインスパイアされた、スパイス系豚骨ラーメン。カルダモン、クミン、コリアンダーをブレンドした、新しい提案です。名古屋店では、看板メニューの「ベジソバ」に加え、「金の煮干し麺」「銀の煮干し麺」をラインナップ。浅草橋店は、限定で出していた味をブラッシュアップし、「ベジ郎」としてオンメニュー。野菜と麺をグラム単位で選べる、新感覚の二郎系ラーメンを提供しました。


ただ、そのぶん、かけたコストもリソースも想像以上。京橋で約6000万円、名古屋で約4000万円──合わせて、1億円を超える投資になっていました。


もちろん、出店前にはシミュレーションもしました。名古屋駅直結のランドマーク的施設に、銀座線・京橋駅直結の再開発ビル。「この立地ならいける」という感触は確かにありました。


2017年には名古屋に初進出
2017年には名古屋に初進出

コロナ禍での3店舗クローズ。判断の速さが未来をつくる


でも、実際に営業が始まると、爆発的なヒットにはつながらなかった。毎月の家賃、人件費、そして投資の返済──固定費がじわじわ効いてくるなかで、どの店舗も収益的に“優等生”とは言えませんでした。


それでも、僕は「やってよかった」と思っています。どの店も新しい挑戦だったし、食べてくださったお客様の反応にも手応えがあった。でも、経営は“気持ち”だけでは続けられない。そう痛感するタイミングが、2020年にやってきます。


そう、コロナです。


当時、6店舗体制だった僕たちは、そのうちの京橋、名古屋、浅草橋の3店舗を、僕は一気に閉める決断をしました。


どれも思い入れのある店舗だったので、正直、苦渋の選択でした。ただ、「ズルズル続けるくらいなら、一度リセットしよう」と、自分の中で腹を括ったんです。

浅草橋「ソラノイロFactory&Labo」
浅草橋「ソラノイロFactory&Labo」
ソラノイロ流の二郎系「ベジ郎」
ソラノイロ流の二郎系「ベジ郎」

経営者に求められるのは、“続けること”だけじゃない


続けるという選択肢も、もちろん頭にはありました。でも、あのときは“引く”ことが未来への一手になる。そう信じて、動きました。


撤退にかかるコストは痛いです。でも、それでも動ける余力を残すためには、判断のスピードこそが命なんですよね。


経営者って、つい「成功」だけがフィーチャーされがちです。店舗を増やす、売上を伸ばす、規模を広げる──それが成功だと。でも、光があるところには必ず影がある。経営者の仕事は、失敗や損切りにどう向き合うかでも決まるんだと、このとき強く思いました。


痛みを“次”につなげる力に


自分の感覚だけで決めた物件のリスク、設備や人材にかけたコスト、営業を止めざるを得なかった現場の混乱──


あのときの経験があるから、今の僕は腹落ちした判断を、スタッフにもしっかり伝えられるようになったと思っています。それが、経営判断というものなんじゃないかな、と……。


さて、次回は、少し視点を変えて、「ラーメンイベントに出る」ということについて書いてみたいと思います。催事の現場で感じた、プロフェッショナルたちの徹底ぶりと凄み、本店営業との違い、そして自分なりの向き合い方について──。


日々店舗を運営している方や、イベントへの出店を考えている方にとって、何かヒントになる話ができればと思っています。


ラーメン店『ソラノイロ』創業者

飲食店コンサルタント 宮崎千尋


 
 
 

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