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組織を動かすのは“情報の流通”──ソラノイロを前に進めるコミュニケーションとは

8月21日、創業の地・麹町の本店が『そらのいろ麹町本舗』としてリニューアルオープンしました。


今回のリニューアルには、実は社長である僕はまったく関与していません。軸となるメニューの試作から、店舗デザイン、施工の管理に至るまで──すべて、2015年から頑張ってくれている大庵康嗣と松本章の2人を中心に、スタッフだけで決め、やり遂げてくれたのです。


これは、チームで動かして、立ち上げた初めての店舗です。大庵と松本にとっても、不安の中での挑戦だったと思いますが、彼らが一人ひとりの力を発揮し、組織として動いたことは、僕たちにとって大きな第一歩となりました。


今回は、その背景にある「チームを強くする」ための気づきや学びについて、僕なりに綴ってみたいと思います。


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「給料は誰からもらっているのか?」──大前提から考えよう


先日、あるセミナーに参加しました。講師は、マクドナルドでお客様満足度・従業員満足度・セールス伸び率の三冠で日本一の店舗をつくり上げた鴨頭嘉人さん。仕事や組織に対する熱量の高い講演で、大きな刺激を受けましたが、なかでも僕の中に残ったのは、「給料って、誰からもらっているんだろう?」という問いでした。


飲食の現場では、「お客様からいただいているものだ」という意識が根強くあります。僕自身もそう信じてきましたし、これまでスタッフにもそのように伝えてきました。けれども、鴨頭さんの話をきっかけに、「本当にそれだけでいいのか?」と、自分の中で立ち止まる瞬間があったのです。


売上の原資は、もちろんお客様です。そこは大前提。ただ、その売上から経費を差し引き、残った利益の中から給料が支払われるという構造を考えると、その仕組みをつくり、運用しているのはソラノイロという会社であり、上司であり、経営の力です。給料の“源”はお客様かもしれませんが、“受け取る”というプロセスにおいて重要な役割を果たしているのは、会社や上司ではないか。そう考えることで、これまでとは少し違う視点が見えてきました。


「お客様のために働く」という意識は、飲食業の根幹ですし、現場を回すチームワークも欠かせません。しかし、意外と見落とされがちなのが、「上司(店長や社長)との関係性」なのではないでしょうか。長い目で見れば、そこに目を向けることが、チームの安定や組織の成長にもつながっていく。そんなふうに、あらためて感じるようになったのです。



情報が流れるだけで、人と組織は変わる


この気づきをきっかけに、僕はNo.2の大庵、No.3の松本と、毎日30分間の終礼ミーティングを始めました。夕方にWebでつなぎ、進捗や課題を共有する場として続けています。たった30分であっても、密度は濃い。組織の動きは目に見えて変わってきました。これが『そらのいろ麹町本舗』の好スタートにつながっているようにも感じます。


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きっかけは、会社全体で取り入れている日報のやり取りだけでは伝わらないことが多いと感じていたからです。今日どんな仕事をしたのか、明日どんなことを考えているのか──文字だけでは、その人の思考や背景までは見えてきません。でも、話してみると、わずかな時間でも伝わる情報の質と量がまるで違う。そんな実感がありました。


数日やりとりを重ねるだけで、彼らの仕事ぶりが明らかに変わっていくのを見て、「情報が流通するだけで、組織はこんなにも変わるのか」と実感しました。


この「情報の流通」、つまり言葉のやり取りという点で、僕は独立した弟子の岩瀬のことを思い出しました。彼はいま大田区で『中華ソバ ちゃるめ』を営んでいて、創業から6年を迎えています。ただ、正直に言えば、もっとできるはずだと感じています。そして、その理由のひとつが、僕とのコミュニケーションの少なさにあるのではないかと思っています。


会食の場を設けたり、定期的に会って話すことはあります。でも、それはほとんど僕からの働きかけによるもので、岩瀬のほうから自発的に連絡が来ることはほとんどありません。今、店づくりにおいてどんなことを考えているのか、何を目指しているのか──その言葉が、僕のもとにはあまり届いてこないのです。


一方で、僕と師匠との関係はどうか。今でも『博多一風堂』ファウンダーの河原成美さんには、折に触れて自分から連絡をしています。「麹町本店をリニューアルする予定です」とか、「海外でこんなことを仕掛けてみたいと思っています」とか、具体的なことからちょっとした雑談まで、何でも話します。


そうすると河原さんは、「自分のときはこうだった」「こんな情報がある」「こういう人に会ってみたら?」と、必ず何かしらのリアクションがある。そのひと言ひと言が、僕の考えをまとめたり、新しい行動につなげていると思うんです。


人間関係とは、情報の流れの中で築かれていくもの。ただの上下関係や形式的な付き合いではなく、互いの考えを行き来させることで関係が深まり、信頼が積み重なっていく。そうしたつながりを、僕自身はとても大切にしてきました。


だからこそ、岩瀬にも、もっと積極的にアクセスしてきてほしい。僕からではなく、自分から――。そう願っているのですが。


終礼という仕組みが生んだ、自律と信頼


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終礼を仕組み化したことで、大庵と松本の中にあった迷いや遠慮が、少しずつ解けていきました。「これは相談すべきか」「今、連絡していいのか」と躊躇していた二人が、話す場を持ったことで、情報が出やすくなり、判断も行動もスムーズになっていきました。


仕事が滞る理由の多くは、「伝わっていない」ことにあるのではないかと思います。上司が何を考えていて、何を求めているのか──それが共有されていれば、自分の動き方にも迷いがなくなります。


もちろん、伝える側の責任もあります。でも、自ら一歩を踏み出し、上司と向き合うことで得られるものは大きい。僕はそう考えています。


「給料は上司からもらっている」という言葉には、経済的な構造以上の意味があると思います。そこには、上司と向き合い、関係性を築いていく責任が含まれている。そう信じているからこそ、僕は終礼を“仕組み”として続けていけろと考えています。


仕事が前に進む背景には、仕組みだけでなく、信頼があります。そしてその信頼は、情報が行き交うなかで育まれていく。今、それをあらためて実感しています。


この先、ソラノイロでは新たな店舗の立ち上げがいくつも控えています。チームで動く場面が増え、各自が考え、判断し、行動していく局面も増えていくでしょう。


だからこそ、言葉を交わすこと、考えを共有すること、信頼を積み重ねていくことが、これまで以上に大切になってきます。これからの僕たちの動きにも、ぜひ注目していただけたら嬉しいです。


さて、『豚骨らーめん そらのいろ麹町本舗』リスタートの後は東銀座に『そらのいろ本店』を新たにオープン。そして、東京メトロ東西線の西葛西駅にて、新ブランドとなる店舗をオープン予定です。ぜひ宜しくお願い致します。


ラーメン店『ソラノイロ』創業者

飲食店コンサルタント

宮崎千尋

 
 
 

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