“繁盛=儲かる”は幻想? ラーメン経営14年のリアル
- 宮崎千尋

- 6月14日
- 読了時間: 5分
更新日:7月22日
ソラノイロを立ち上げて、今年で14周年。僕自身も、スタッフも、グループ全体としても、さまざまな経験を積んできました。そこで強く記憶に残っているのは、やはり創業当初、最初の1~2年に起こった多くの出来事です。ここからしばらく、当初の奮闘で得た気づきについて書いていこうと思います。
まず、特にインパクトがあったのが、「売上はあった。でも、キャッシュは残らなかった」という現実です。
今思えば、これは「味」ではなく「経営」として向き合う最初の壁でした。開業前にこの現実を知っているかどうかで、その後の判断は大きく変わってくると思います。


売上があっても資金が残らない──“支払いサイト”の落とし穴
創業からわずか4か月後、僕はある大型ラーメンイベントに初めて出店しました。「2000杯は出ますよ」と運営側に言われ、当時の僕は何の疑いもなく「やります!」と即決。いま思えば、まだ“売上=利益”という感覚でしか判断できていなかったんですね。
実際には、出たのは800~900杯。材料は事前に仕込んでいたので多くのロスが出てしまいました。そして何より問題だったのが、売上の入金がイベントから2か月後だったこと。
材料費や人件費は先に出ていくのに、入ってくるはずのお金がなかなか入ってこない。まさに“キャッシュが止まる”という状況を、初めて体験しました。
この時、アルバイトのスタッフに給料の支払いを数日だけ待ってもらったり、取引先に頭を下げて支払いを猶予してもらったりと、ギリギリの対応をすることになりました。
これはただの「イベントの失敗」ではなく、キャッシュフローの重要性を肌で学ぶ機会だったと思います。売上が立っていても、現金が手元にないと何も動かせない──その当たり前を、初年度で痛感することになりました。
そして、今回のような事態を招いた最大の原因は、出店を決める前に「入金条件(支払いサイト)」を確認しなかったことにあります。
どんなイベントでも、どんな取引でも、参加・契約前には必ず「売上入金のタイミングと方法」「初期投資と回収スパン」を明確にしておくこと。
資金繰りに無理がないか、あらかじめシミュレーションしておくこと。
これが、今では僕自身がもっとも重要なチェックポイントのひとつとして位置づけている視点です。

返済条件で資金繰りは決まる──“2年返済”の落とし穴
イベントでのキャッシュショートに加えて、もう一つ大きかったのが借入返済の設計ミスです。
創業時、僕は政策金融公庫から600万円を、親からも600万円を借りました。このうち、公庫からの借入を“2年返済”という非常にタイトな条件で設定してしまったことが、大きな負担となりました。
なぜそんな短期返済にしたのか。当時の税理士さんに「2年でいけるんじゃない?」と言われて、深く考えずに「じゃあ、それで」と決めてしまった――今思えば、これが大きな判断ミスでした。
実際、毎月の返済額は約35万円。これだけの金額を、まだ軌道に乗る前の創業期に払い続けるのは、あまりにも負担が大きすぎました。
通常であれば、借入金は5年~7年の返済スパンで無理なく計画すべきところを、知識がなかったことで“月々の負担感”を軽視してしまった。しかも、月10万円で親への返済も同時並行。売上があっても、手元に残るキャッシュはほとんどない。そんな状況に、自分で自分を追い込んでしまったんです。
この失敗から学んだのは、「返済期間の設計=経営の基礎」だということ。
短期で返せば“良い経営者”と思われるかもしれない。でも、経営は継続が前提です。長期的な視点で、事業の成長スピードや資金繰りをシミュレーションしながら、無理のないプランを組むこと。そして、専門家のアドバイスも大切ですが、最終判断は自分の責任で行うべきだということを、このとき強く痛感しました。
ラーメン屋=儲かる? その幻想
「ラーメン店って、やっぱり儲かるんでしょ?」今でもそんな声をよく耳にします。でも、現実はそんなに単純ではありません。
創業当時の僕は、売上が立てば自然とお金が残るはずだと、どこかで思っていたのかもしれません。
いくら売れていても、そこから材料費・人件費・家賃・借入返済などの固定費が出ていく。しかも、入金のタイミングを読み違えれば、キャッシュはすぐに尽きる。でも現実は、「手元に残る現金=キャッシュ」がなければ、どれだけ繁盛していても経営は回らない。
この経験から得た一番の教訓は、「商売は売上ではなくキャッシュ」だというシンプルな事実です。そのためには、以下のような視点が欠かせない。そう、今でははっきり言えます。
●利益構造の把握:売上からどれだけ費用が引かれ、何が残るのかを常に意識すること
●固定費の設計と管理:家賃・人件費・返済など、“毎月必ず出ていくお金”をどう設計するかが経営の土台になる
●現場の熱量×経営の冷静さ:味づくりに情熱を注ぐのと同じくらい、資金繰りや返済計画にも目を向けること
当時の自分はラーメンの味には全力で向き合っていたけれど、お金の流れ、事業の設計には目が届いていなかった。それが、創業初年度で最も大きなつまずきだったと思います。
次回は、そんなスタートから2号店に踏み出したときの話をお届けします。1店舗目の成功が、思わぬ落とし穴になる――そんな体験から得た気づきについて書いていきます。
ラーメン店『ソラノイロ』創業者
飲食店コンサルタント 宮崎千尋




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